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国立成育医療研究センター(東京)や埼玉医大の研究チームは、視神経細胞をiPS細胞から世界で初めて作製した。一度損傷すると再生が困難とされていた視神経だが、研究が成功したことで、視神経細胞における眼疾患のメカニズム解明が可能になり、再生医療への応用も期待される。ここでは、詳しい研究内容や再生医療としての使用実例などを解説していく。
2014年には国内で世界初のiPS細胞による「加齢黄斑変性」の手術が行われたが、2015年、次世代医療と期待されている再生医療の新たな研究結果が発表された。国立成育医療研究センター(東京)や埼玉医大の研究チームは、目と脳をつなぐ軸索という繊維状の部位を含む視神経細胞をiPS細胞から世界で初めて作製したと2月10日(2015年)付けの英科学誌SCIENTIFIC REPORTS(電子版)で発表。これにより目の様々な病気のメカニズムの解明や治療薬の開発につながるかもしれない。
視神経細胞は、細胞体と繊維状の神経線維から構成されている神経細胞だ。目から取り入れられた情報は、軸策と呼ばれる長さ1〜2センチの神経線維が目の網膜から脳に伸びることで伝えられる。この軸策を含んだ視神経細胞に障害や損傷が起こって信号伝達が上手く機能しなくなると、視力が低下したり失明にも繋がる。 これまでの研究では、視神経は一度損傷すると再生が困難とされていた。
研究グループは難しいとされていた軸策を含む繊維状の視神経細胞を作製することに成功した。
人間の皮膚からつくったiPS細胞のかたまりを特殊なたんぱく質が入った栄養液に浮かせる方法で2週間ほど培養。その後、平面上の培養に切り替えて、さらに2週間ほど培養を続けることで視神経細胞に分化させた。作製された視神経細胞は電気反応などが確認され、神経として機能することが示された。
重大な視力障害を招く緑内障などの代表的な疾患をはじめとして視神経の病気は多く、そのほとんどがこの神経線維で起こっている。視神経細胞の作製に成功したことで、分子生物学的に視神経疾患のメカニズムを解析することが可能になる。
2021年1月、神戸市立神戸アイセンター病院は、目の病気を持つ50人の患者に対してiPS細胞から作製した網膜の細胞を含む液体移植手術を実施し、その効果を検証することを発表した。対象は、「網膜色素上皮(RPE)細胞」の異常が原因で起きる病気の患者とされている。1例目の手術は2021年3月に既に行われており、神戸市立神戸アイセンター病院にて実施された関西在住の40歳代の男性に対するもので、無事に成功したという。
国内では、失明原因の1位である緑内障の推定患者数が400万人に上っており、根本治療がないことで視力障害に苦しんでいる患者は多い。この緑内障でも軸索の障害が起きているため、その発症メカニズムの解明や治療薬開発が期待される。さらに、屈折異常や斜視、色覚以上などの遺伝性眼疾患のある患者の細胞から視神経細胞を作製し、修復方法を研究することで根本的な治療法が確立される可能性に期待がかかる。
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