『対人恐怖症』の8割の患者に「認知行動療法」が有効

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千葉大・宮崎大の合同グループの研究から、人前で極度の緊張感や恐怖感を持つ「対人恐怖症」の治療には認知行動療法の効果が高いことが分かった。2016年4月からは保険も適用されるが、専門家の育成が課題となっている。ここでは、対人恐怖症についてや認知行動療法でいかに症状が改善するか詳しく解説していく。

対人恐怖症(社交不安症)と認知行動療法に関する研究結果

人前で話をすると極度に緊張し、人とコミュニケーションを取ることに対して、「嫌われてしまうのでは」、「不快感を与えてしまうのでは」などの過度な不安感や恐怖心を持ってしまう『対人恐怖症(社交不安症)』。抗うつ剤などの対処療法を行うが、薬の効果が十分でないケースも多い。

今回、宮崎大学と千葉大学の共同研究グループでは、このような薬が十分に効かない対人恐怖症の患者でも、「認知行動療法」によって症状を改善させられることを臨床試験で確認したと2016年6月7日に発表した。同研究成果は、2016年5月27日付けの欧州医学雑誌Psychotherapy and Psychosomatics誌(電子速報版)に掲載されている。

そもそも対人恐怖症(社交不安症)とは?

【対人恐怖症(社交不安症)の症状】

・注目を浴びることへの恐怖感
・視線への恐怖
・発汗
・震え
・赤面
『対人恐怖症(社交不安症)』は、「人前で食事ができない」、「人の注目を浴びるのが怖い」など、人との「交流」で著しい不安や恐怖を生じる精神疾患とされる。就業が困難になり、日常生活に関わる障害の大きさを考えると重大な疾患で、労働や経済にも多大な影響を与えているという。

有病率は12.1%と高く、平均発症年齢は10代半ばだが、30歳前半までに発症している患者が多い傾向にある。自然寛解率は15.1%と慢性化しやすいことも特徴と言えるだろう。また、発症率は女性の方が比較的多いが、病院に足を運ぶのは男性患者の方が多いとされている。

対人恐怖症(社交不安症)の治療法

これまで、この対人恐怖症の治療は抗うつ薬を用いた薬物療法が主で、世界的にも標準的な治療法とされていた。しかし一方で、患者の7~8割が抗うつ薬治療だけでは十分な改善を示さないことが課題とされていた。

対人恐怖症(社交不安症)には、大きく分けて薬物療法と精神治療法の2つがある。 薬物療法では、脳内物質「セロトニン」の濃度を高め、不安や恐怖を抑える、抗うつ薬「SSRI」が多く使用される。また、脳神経に作用する抗不安薬やβ遮断薬が用いられることもある。

一方、精神療法では、森田療法、認知行動療法などが取り入られている。物事を否定的にとらえる患者が多い傾向にあることから、恐怖や不安につながる否定的な受け取り方を、事実に沿った客観的なものに変えていき、新たな行動パターンを定着させる治療が行われる。

認知行動療法で症状が改善、半数近くは症状がほぼ消失

今回研究グループでは、投薬治療の効果が現れていない患者42人を対象に、4ヶ月間、「投薬のみ(通常治療)」のグループと「投薬に週1回の認知行動療法を併用する」グループの2群に分けて、それぞれの症状の変化を調査した。

その結果、「投薬のみ」のグループでは治療反応率が1割だったのに対し、「投薬に週1回の認知行動療法を併用する」グループでは8割以上となった。また、寛解率(症状の軽減・改善)では、「投薬のみ」のグループでは全く見られなかったが、認知行動療法を併用したグループでは、約半数(47.6%)にまで上った。

治療終了後、1年間は効果が維持されることが明らかに

2019年5月23日付の欧州医学雑誌「Psychotherapy and Psychosomatics 誌」によると、宮崎大学・千葉大学の研究グループは新たに、薬の治療が効かない対人恐怖症(社交不安症)患者に対する認知行動療法の研究を実施。その結果、治療による症状の改善に加えて、治療終了後1年間の効果の維持が確認されたという。

今回の研究では、週1回50~90分の個人面接、合計16回(4ヶ月)分の認知行動療法を行い、さらに治療終了1年後まで患者の経過観察を続けた。結果、認知行動療法を受けた人は16週までに社会不安症状の改善が認められ、その効果は1年後まで維持されただけではなく、治療を終えた直後より1年後の方が改善されていることが分かった。

2016年からは保険も適用、専門家の育成が課題

今回の研究結果を受けて、2016年4月からの公的医療保険(2016 年度の診療報酬改定)では、「認知行動療法」の対象疾患と認められ、この『対人恐怖症(社交不安症)』の治療に保険が適用されるようになった。 (保険適用の要件として、同研究で作成・使用された認知行動療法マニュアルに従って治療が実施された場合に限る。)

「認知行動療法」では、患者は面接などを通じて治療者との会話をしながら、自身の行動を考えて、行動の幅を広げるが、専門家は全国に100人程度と適切な対応をできる治療者はまだまだ少ない。 そのため、今後は認知行動療法の普及を目指し、治療者の養成・研修制度の整備、 認知行動療法の長期的・医療経済的効果に関する評価、脳科学的な作用機序の解明などの研究が期待される。 後まで維持されただけではなく、治療を終えた直後より1年後の方が改善されていることが分かった。


【出典】
1、https://eurekalert.org/pub_releases_ml/2019-05/uom-5052819.php
2、https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000113841.pdf
3、https://snabi.jp/article/32

公開日 :2016.07.27 更新日 :2021.07.02

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