腎臓がんの早期発見バイオマーカー「AZUI」

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2013年のノーベル医学生理学賞で取り上げられた「細胞内小胞輸送機構の解明」では、その産物の一つの「エクソソーム」に注目が集まった。 がん研究会(東京都江東区、野田哲生所長)は10月4日、植田幸嗣氏(同研究会がんプレシジョン医療研究センタープロジェクトリーダー)、辻川和丈氏(大阪大学大学院薬学系研究科教授)、野々村祝夫氏(同教授)らの研究チームが、血中のエクソソームから腎臓がん早期診断バイオマーカー「アズロシディン(AZU1)」を発見したと発表した。 同研究成果は、国際対がん連合(UICC)の公式誌「International Journal of Cancer」オンライン版に掲載されている。

血液バイオマーカーが発見されていない「腎臓がん」

悪性腫瘍である「腎臓がん」は、世界的にも罹患数・死亡数が年々増加しており、早期発見時の臨床予後は良好な一方で、発見が遅れると大変予後が悪い。 国内では年間約2万5千人が罹患し、約9千人が死亡するとされている。多くのがんと同様に、早期診断が生命予後に大きく影響するがんだ。 診断時臨床病期が「I期」では5年生存率97.1%に対し、「IV期」では16.4%まで低下まで低下する。一方で、現状では、腎臓がん診断の約8割が、他の検査で偶然発見される「偶発がん」でもある。 また、腎臓がんにおいて、診断に使用可能な血液バイオマーカーが一つも発見されていない

「エクソソーム」から腎臓がんのバイオマーカーを同定

エクソソーム(細胞外小胞)は、細胞間での情報伝達を行うとされる小胞で、がんの精緻な個別化医療である「がんプレシジョン医療」の開発を進めているがん研究会・がんプレシジョン医療研究センターでは、同研究所の保有する世界最高感度のタンパク質質量分析技術を駆使して、腎臓がん細胞が分泌するエクソソームから早期診断に利用可能なバイオマーカーを同定することを試みた。 同研究グループでは、まず、手術で切除してすぐの“生きた組織”から分泌される「エクソソーム」の採取技術を開発。 腎臓がん患者様(20名)から提供された腎組織からエクソソームを抽出し、最先端の質量分析計で解析した結果、3,871種のエクソソーム構成タンパク質が検出され、その中でも「アズロシディン(AZU1)タンパク質」が著しく蓄積されていることが判明。 さらに、血清エクソソームの測定試験では、臨床病期Ia期(もっとも初期の段階)の腎臓がんでも「AZU1」が健常者より高値を示した。(10人の健常者、20人の腎臓がん患者)

血液診断キットの開発に着手、実用化へ期待

人工的にこの「AZU1タンパク質」を多量に発現するエクソソームを作成し、血管内皮細胞シートとの相互作用を調査すると、「AZU1」が豊富なエクソソームは血管内皮細胞シートを傷害し、がん細胞の血行性転移を誘発している可能性があることがわかったという。 これらの結果をもとに、同研究グループはすでに、東ソー株式会社と共同開発契約を締結。世界初のエクソソーム上タンパク質を指標とした血液診断キットの開発に着手している。 今後は、その早期の実用化を目指すことで、実現すれば世界初の腎臓がんバイオマーカーとなる。

公開日 :2017.11.24 更新日 :2021.10.06

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