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喉仏の下に位置する「甲状腺」は、性ホルモンなどの数種類のホルモンを作る内分泌器官の1つで、近年では、甲状腺ホルモンの分泌を促す『甲状腺刺激ホルモン(TSH)』の高感度測定法が開発されたことにより、甲状腺機能のスクリーニング検診や甲状腺機能異常の薬物療法の調節などが行われている。
このヒトの甲状腺刺激ホルモン(TSH)の制御には、脳視床下部で産生される「甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)」が関わっているが、それ以外の他の脳機能・臨床因子などがかかわる可能性はほとんど分かっていなかった。
兵庫医科大学では3月13日、角谷学氏(同大学内科学(糖尿病・内分泌・代謝科)講座助教)、小山英則氏(同主任教授)らの研究グループが、この甲状腺刺激ホルモン(TSH)の制御に「睡眠の質」が影響を及ぼしていることを発見したと発表した。
同研究成果は、に同日付けの「Scientific Reports」に掲載されている。
甲状腺ホルモンの分泌異常は女性に多く見られ、甲状腺ホルモンの分泌機能が低下する甲状腺機能低下症では、「血中TSH値」が上昇する。反対に、甲状腺ホルモンの分泌が異常に活発になる甲状腺機能亢進症では「血中TSH値」は低下する。そのため、甲状腺機能のスクリーニング検診では「血清TSH」の値を指標にしている。
この「血清TSH」は脳下垂体で産生され、通常、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)によって厳密に制御されていることが分かっていた。
さらに従来、稀な疾患とされる「マクロTSH血症」は、免疫グロブリン(血中の抗体)と結合した血清TSHが、代謝を受けずに高濃度で血中に滞留してしまう。しかし、一般患者における血清TSH値の測定ではこの免疫グロブリンが結合した「マクロTSH」が含まれることが想定されていないことで同疾患を見落とすなどの問題があった。
同大学では、現在1,000名以上の患者を対象にして、2010年から「Hyogo Sleep Cardio-Autonomic Atherosclerosis」(HSCAA)コホート研究を開始。平均約2.5年の追跡を行っている。
これは、動脈硬化・糖尿病・慢性腎臓病・メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の発症に、「睡眠」・「疲労」・「自律神経機能」といった神経内分泌学的機能がどのように関わるのかを検討するもの。
今回同研究グループでは、同コホート研究の登録患者から、甲状腺疾患を有さない患者314名の血清TSHを解析した。その解析結果では、対象患者の血清TSH値は正常範囲にあったものの、ほぼすべての患者で、TSHの6~9割が血清蛋白と結合した「マクロTSH」として存在していることが明らかになった。さらに、この「マクロTSH」は、糖鎖構造の異なるTSHが免疫グロブリンと結合した状態であることも確認されたという。
さらにこの「マクロTSH」が高値のケースでは、睡眠の効率の低下・質の悪化とも有意な関連を示すことが分かり、『睡眠障害』がTSHの糖鎖構造の変化に影響を与え、血清でマクロTSHを形成する可能性を示すものとなった。同研究グループでは、これはTRH制御以外の高次脳機能によって、TSH調節機構が影響を受ける可能性が初めて分かったものだとしている。
今回の結果から、血清TSH値の評価には、甲状腺機能のみではなく、睡眠障害などの影響を考慮する必要性も示された。これは神経内分泌学的見地のみでなく、内分泌臨床においても重要な知見となる。また『睡眠障害』がTSHの糖鎖構造の変化といった神経内分泌恒常性に影響を与え、肥満・糖尿病などの生活習慣病の発症・進行につながるという道筋を示すものともいえる。
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