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外科手術において、傷を処置するために主に使用されている縫合糸は、短時間でも十分な接着性を発揮し、かつ取り扱いが容易な「生体組織接着材」であることが望まれている。
従来から使用されている「フィブリン系接着剤」は、生体親和性には優れるものの、接着の強さでは問題があり、「高い接着強度」と「生体親和性」の二つを併せ持った新たな接着材開発が課題となっていた。
岡山大学では5月9日、松本卓也氏(同大大学院医歯薬学総合研究科(歯)生体材料学分野教授)、岡田正弘氏(同准教授)、大阪大学、物質材料研究機構の共同研究グループが、骨・歯の主成分「アパタイト」を基にした新タイプの生体組織接着材の開発に成功したことを発表した。
同研究成果は、5月5日付けの国際科学雑誌「Acta Biomaterialia」(電子版)に掲載されている。
フィブリン系接着剤は、血液中のタンパク質の一種・フィブリンと血液の凝固メカニズムを利用した生体用接着剤。生体親和性に優れ、安全性は高いものの接着力は乏しく、血液における感染症の問題も懸念されるなどの問題があった。
今回、同研究グループが着目した「ハイドロキシアパタイト」は、歯や骨の主成分となる無機成分だ。そのため、生体親和性に非常に優れる材料となる。
このハイドロキシアパタイトの生体分子吸着性を利用して、ハイドロキシアパタイトをナノオーダーによる形態制御で人工合成。生体組織に含まれるタンパク質など有機質との相互作用を高めて生体親和性と接着力の両方に優れた接着材を開発した。
同接着材を生体組織間に挿入し、圧接のみで生体組織間を接着できる。
マウス実験で取り出した皮膚組織を接着したところ、市販のフィブリン系接着剤と比較して2倍以上の接着力を持つことも分かったという。
今回新たに開発された材料は、滅菌などの取り扱いについては容易で、短時間での強力な接着力の発揮が可能な優れた接着材としての応用が期待される。
また、切断した皮膚などを容易に接着可能なことも確認したという。さらに同材料は、異なる組織同士の接着、人工生体材料と生体組織との接着などにも寄与するもので、同研究グループでは今後については、新たな医用工学的治療を進める基盤材料としての活用も期待できるとしている。
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